Twitter「漢詩作法入門講座」( URL: https://twitter.com/kansisahou) で掲載していた「平仄両様の単語」についてまとめてみます。
ネタ元は『言永 第四輯』になります。
さて、「平仄両様(両用でない所に注意してください)」では、文字(単語)が異なれば厳密に言えば必ずしも同義でない場合もある訳ですが、漢詩の場合、多少の相違は同一視されることも多くあります。
そのため、実際に同義として使えるかどうかは先人の作品を検証する必要がありますが、まずは、同義と思われる単語を列挙しています。
「あさ」=「朝・晨(平)」、「暁・旦(仄)」
「ゆう」=「宵・昏(平)」、「夕・晩(仄)」
「やま」=「山(平)」、「岳(仄)」
「かわ」=「川・河(平)」、「水(仄)」
「みね」=「峯・巓・岑(平)」、「嶺・頂(仄)」
「いえ」=「家・居(平)」、「屋・舎・宅(仄)」
「まど」=「窓(平)」、「牖(仄)」
「とり」=「禽(平)」、「鳥(仄)」
「みち」=「蹊・途(平)」、「道・路(仄)」
「こけ」=「苔(平)」、「蘚(仄)」
「たけ」=「筠・篁(平)」、「竹(仄)」
「たき」=「泉(平)」、「瀑(仄)」
「ちゃ」=「茶(平)」、「茗(仄)」
「なみ」=「波・濤(平)」、「浪(仄)」
「はな」=「花・葩(平)」、「蘂(仄)」
「こえ」=「声・音(平)」、「語・韻(仄)」
「とも」=「朋・儔(平)」、「友・侶・伴(仄)」
「つえ」=「笻(平)」、「杖(仄)」
「ひと」=「人(平)」、「士・客(仄)」
「うち」=「中(平)」、「裡(仄)」
「おきな」=「翁(平)」、「叟・老(仄)」
「みぎわ」=「汀・湄(平)」、「渚(仄)」
「ほこら」=「祠(平)」、「廟(仄)」
「とばり」=「帷(平)」、「帳(仄)」
「むしろ」=「氈・筵(平)」、「席(仄)」
漢詩では、単語(一文字)を考える場合もありますが、多くは、基本となるリズムである「二字 二字 三字」を考えます。特に多くは二文字の熟語が基本となります。
さて、それでは二文字の熟語を「漢和辞典」で調べてみましょう。例えば、「あさ」を意味する「晨(平)」を調べてみると「晨鐘」「晨風」「晨光」「晨晷」など、いろいろ出ています。また、「暁(仄)」を調べると「暁起」「暁天」「暁風」などが出ています。
このとき「晨」と「暁」が、それぞれ「平」と「仄」であることは分かりますが、「鐘」「風」「光」「晷」「起」「天」の文字が平なのか仄なのかは、覚えていなければもう一度平仄を調べなければなりません。
七言絶句を作るときの平仄の規則に「二四不同」と云うものがありましたが、このときの「二文字目」と「四文字目」は、二文字の熟語という観点からすると、常に下側の文字の平仄を問題にしていることがわかります。
つまり「-晨」と「-暁」となる熟語がわかれば、少なくとも上側の平仄が分からなくても「二四不同」の規則に叶った句を作ることができます。
ところが、先の例からも明らかなように漢和辞典では該当する文字が下側に来る熟語が調べにくくなっています。
そこで、登場するのが「韻書」と呼ばれる書物です。「韻書」にもいくつか種類がありますが、入手の用意さを考えて『詩韻含英異同弁』を例に調べてみます。
今度は文字を変えて「ひと」を意味する「人(平)」と「客(仄)」について調べてみます。
まずは、漢和辞典で「人」を調べると「人煙」「人外」「人語」「人心」など多くの熟語が出ています。「客」を調べると「客衣」「客袖」「客意」「客愁」など、こちらも多くの熟語が出ています。ただし、いずれも下側の単語の平仄は「平」あり「仄」ありの状態です。
では、次に『詩韻含英異同弁』で「人」の文字を調べてみましょう。
『詩韻含英異同弁』は全漢文の本なので、最初はかなり抵抗があると思いますが、これも慣れてくると漢文を特に意識しなくても使うことができるようになります。
さて、まずは最初に文字の「韻」を調べないといけません。それには「漢和辞典」を使います。すると「人」の字は「真韻」であることが分かります。
つぎに『詩韻含英異同弁』から「真韻」の部分を探します。
見つかったならば、その項目から「人」の字を探します。
「人」の字の項目には一文字と「|」の組み合わせが並んでいますが、これは「|」の部分には「人」の字が来ることを意味します。
熟語の最初のグループは「仄字」から始まる熟語が並んでいます。つまり「小-」「美-」「野-」など多くの熟語があり、「小、美、野」字は、いづれも「仄字」になります。
そして、このグループの最後の熟語「廢-」の下に横線「_」で区切りがありますが、これは次からの熟語が「平字」から始まる熟語になることを意味しています。
つまり「幽-」の場合であれば、「幽」字は「平字」ということになります。このグループには、「閑-」「詩-」「仙-」など、やはり多くの熟語がありますが、「閑、詩、仙」字は、いづれも「平字」になります。
また、三字グループは、「失意-」(仄仄-)、「岐路-」(平仄-)、「非常-」(平平-)や「読書-」(仄平-)などのように平仄が変わる部分に横線「_」で区切って熟語が列挙されています。
それでは同様に「客」字を「漢和辞典」で調べると「陌韻」であることが分かるので、同じように「陌韻」の部分から「客」字を探すと、「俗-」「幽-」「青眼-」「垂綸-」「青雲-」などのように熟語が多く列挙されています。
ただし、意味は掲載されていないので漢和辞典は手放せませんし、最初に文字が属する「韻」を調べるときにも漢和辞典は必須の道具ということになります。
さて、如何でしたでしょうか。
「平仄両様」の文字から『詩韻含英異同弁』の使い方(簡単すぎる説明ですが)まで、駆け足で見てきました。
ただ、初心者が最初から、この作業を延々繰り返していては、一詩を完成させるのにあまりにも時間が掛かり過ぎます。
その作業を多少なりとも軽減してくれるのが、「詩語表」です。ぜひ、手元に「詩語表」を置いて、作詩してみましょう。そして、そこから『詩韻含英異同弁』のような「韻書」を利用して「詩語」の幅を広げていきましょう。
さて、下手な説明、かつ急ぎ足で説明してきましたが、きっと漢詩を作るという作業は、とても面倒だと思われたことでしょう。でも、この面倒さも楽しみであり、醍醐味でもあるわけです。さらには、漢和辞典や詩韻含英異同弁を読んでいると今まで知らなかった言葉や故事なども知ることができます。
物事の効率も大事ですが、そればかりでなく、こんな面倒なことをしてみようと思う人も結構います。まだ、漢詩づくりをためらっている方、ぜひ、挑戦して見てください。
詩の優劣とか巧拙とか、それも大切でしょうが、それよりも、
知らなかったことを知ることができる。何と楽しいことでしょう。
では、次の記事で、また、お会いしましょう。
失礼します。
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