2019年3月17日日曜日

七言絶句の作法

今回は七言絶句を作るための原則(作法)をまとめてみたいと思います。


七言絶句平仄式と呼ばれるものは上の図になりますが、この図を基に原則を見ていきましょう。

原則の前に

さて、原則の前の基本として、「平」と「仄」を合わせて「平仄」、また、漢字には「韻(詩韻)」と呼ばれる分類方法があることを知っていることが基本となります。

まず、漢字には「四声」と呼ばれる分類があって、さらにそれは「平(字)」と「仄(字)」に分類されます。

図で表現する場合には、「平字」を「白丸」、「仄字」を黒丸で表現することがあります(本サイトもこの表現方法を使用しています)。

さらに漢字の「四声」の中は、いくつかの「韻(詩韻)」と呼ばれるグループに分類されていて、中国古典詩(このサイトで言う所の漢詩)でよく使用されている詩韻に「平水韻」という詩韻の分類方法があります。

韻についての説明は「声母・韻母・声調と韻(詩韻)の関係について独習してみた」、平水韻については「平水韻について独習してみた」を参考にして見てください。

原則1 押韻


七言絶句は一句七文字の四句から構成されています。その第一句を起句、第二句を承句、第三句を転句、第四句を結句(あるいは合句)と読んでいます。

その第一句と第二句、第四句目の七文字目の韻を同一にすることを「押韻」と呼びます。また、「韻を踏む」と呼んでいます。

このとき「通韻」とか「踏み落し」とかについて説明してあるものがありますが、これらは例外です。特に「踏み落し」の例はとても多くありますが、それはどんな場合にでも通用する原則ではありません。

まずは、一・二・四句目の七文字目を同一韻の文字にすることを原則としています。

さらに、図では二重白丸で表現して「平字」であることも合わせて示していますが、これについても「仄字」で押韻する「仄韻詩」として説明してあることがありますが、こちらも例外として、通常の「平韻」で押韻する方法を原則として扱っています。

原則2 二四不同・二六対(二六同)


七言絶句における平仄の配列は起句の二文字目の平仄により、二文字目が「仄」の場合を「仄起式(そっきしき、そくおこりしき)」、「平」の場合を「平起式(ひょうきしき、ひょうおこりしき)」と呼び、二種類の配列があります。

この平仄の配列方法を「平仄式」と呼ぶこともあり、この配列に関していくつかの原則があります。その最初が「二四不同」と「二六対」です。

二四不同」は、二文字目と四文字目の平仄が異なるルールのことを言います。二文字目が「平」の場合、四文字目は「仄」、逆に二文字目が「仄」の場合は四文字は「平」になります。

二六対」あるいは「二六同」は、二文字目と六文字目の平仄が同じになることを言います。

このとき起句と承句、転句と結句の二・四・六文字目の平仄を比較すると、平に対しては仄、仄に対しては平となっていることが分かると思います。これを「反法」と言います。

同様に、承句と転句の二・四・六文字目の平仄を比較すると、それぞれの平仄が一致していることが分かると思います。これを「粘法」と言います。

しかし、こうした用語も最初はあまり気にする必要はないと思います。私も普段、こうした用語は意識していませんし、いろいろな解説書を読むときに必要になるくらいで、用語を知っているかどうかは作詩に直接影響しないと考えています。

原則3 第四字目の孤平を禁ずる



ここで言う「孤平」とは「●○●」のように四字目の「平字」が「仄字」に挟まれることを言います。平仄が「孤平」となる可能性があるのは、「仄起式」の起句と結句、「平起式」の承句のみです。

この部分だけは三文字目が「仄」の場合は五文字目を「平」にして「孤平」を避けます。また、五文字目が「仄」の場合は三文字目を「平」として、同様に「孤平」を避ける必要があります。


四字目の孤平を禁ずる原則に関しては例外があります。それには「平起式」の転句下三文字の平仄の配列が関係しています。

「平起式」の下三文字は、「○●●」が一般的ですが、これを「●○●」とすることができます。これを「挟み平」と呼びます。

このとき、五字目が「仄」に固定されているため、四字目が「孤平」になり易いわけですが、このときの「孤平」は昔から看過されています。つまり許されることになります。

いろいろ理由はあるようですが、下三字を「●○●」とした場合、二六不同となり原則である「二六対」が成立していない(言い換えると、この場合は二六対の原則に従わないことが許される)ので、その場合の孤平は問題にしない、ということらしいです。

いずれにしても、少しでもルールが緩和されるならば(ただし、自分勝手に緩和するのではなく、先人の例に従ってということになります)、それは良いことだと思います。

原則4 下三連を禁ずる



下三文字の平仄が三連続の「平」あるいは三連続の「仄」になることを禁ずるということです。

これも先人の例には三連となっているものがあるようですが、それも一般的ではないようです。つまり例外と言うことです。

さらに、三連にした場合の平仄の配列法について説明してある資料もありますが、やはり例外的な扱いなので、まずは三連にしないことが肝心でしょう。

原則5 同字重出を避ける

さて、以上までが平仄の配列に関する原則でしたが、それ以外に「同字重出を避ける」という原則があります。

例えば、起句に「春風」と使い、結句で「春水」と使った場合、「春」字が同字重出になります。

ただし、「水満清江花満山」「江上清風山上月」などのように一句中の同字や「嫋嫋」「離離」「蒼蒼」など「重言」の同字は重出には含みません。

さて、ここでは原則として「同字重出」を取り上げましたが、解説書によっては取り上げていないものもあります。それは、先人の作例には同字重出の例が非常に多く見られるからです。

ただし、これも大家と呼ばれる人などが他の文字で置き換えることができないから、已むを得ず同字重出していると考えています。それを初心者が安易に真似をしても字の使い方を誤ることの方が多いと思いますそのため、ここでは敢えて原則として取り上げました。

その他の規則

その他にも多くの規約が説明してある解説本などもありますが、原則としては上記のもので良いと思います。

例えば、その他の規約として「第二字の孤平を禁ずる」「第六字の孤平を禁ずる」さらには「孤仄を禁ずる」などの解説があるらしいのですが、いずれも今回は原則には入れていません。

そうした事柄を指摘している解説書もあるのですが、極めて少ないし、逆に「初学のうちは、平仄をあまりむづかしく考えすぎると、平仄につまづいて先に進めなくなる」旨の解説書は多く見られ、しかも先人の作品が、こうした細かな規則まで当てはめて見ていくと、多くがその通りになっていない状況があります。

そのため、ここではそうした細かな規則については取り上げていません。

また、句中に韻脚(押韻字のこと)と同韻の文字を使用することを「冒韻」と言って禁止している説明も、よく見かけます。しかし、これなどもあまり気にしない方が良いように思います。

韻脚と同一韻の文字を使用することは避けた方が良いのかもしれませんが、そのことに余りにも意識を集中すると、詩自体への集中が疎かになってしまいます。

雑誌『言永』にも「冒韻を避けるに越したことはなかろうが、絶対の禁ではないから、あまり気にせぬほうがよい」と出ていました。

このように細かな規則をいろいろ述べてある解説本がありますが、実際の所は上記の五つの原則で足りてると思います。

さて、いろいろと述べてきましたが、こうした原則を守れば七言絶句が作れるのか、と聞かれると、返答に困るのですが、答えは是でもあり否でもあるとなります。

初心者は、原則を知り、詩語表、漢和辞典を使い、なおかつ苦労してやっと一首できるかどうかでしょう。

つまり、原則を知り、詩語表、漢和辞典などの道具立てを行い、その上で実作する苦労を経験する以外に近道はないものと思います。この「実作」をするかしないかが「是否」の分かれ道でしょう。


では、次の記事で、また、お会いしましょう。
失礼します。

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