2017年4月24日月曜日

淡窓詩話(其一)

今回は漢文の学習を一休みして、詩話の中でも有名な『淡窓詩話』を取り上げます(原文の画像は、国立国会図書館デジタルコレクションの画像を参考にしてください)。上下、全二巻。

淡窓詩話』は、「広瀬淡窓」が門下生の問いに答えて、詩の本質、作詩の方法や心得、詩の味わい方などについて語ったものを、養子、「広瀬青邨」が明治初年に編集したものです。

作者略伝
広瀬淡窓(ひろせ-たんそう)=(1782-1856) 江戸後期の儒者・漢詩人・教育家。豊後国日田の人。名は簡、のち建。字は廉卿、のち子基。淡窓と号す。1817年豊後日田郡堀田村に私塾、咸宜園(かんぎえん)を開き、敬天を旨とする教育を行う。門下に高野長英・大村益次郎・長三洲等を輩出す。安政3年(1856)歿、75才。

なお、漢字については漢字コード(UTF-8)で表現できる範囲で原文のままとしています。

淡窓詩話 上巻

淡窓廣瀬先生著
男 範世叔校

○長允文問 詩ヲ學ブニハ。諸體何レヲ先ニ學ビ。何レヲ後ニスベキヤ。
詩ヲ學ブノ前後。童子無學ノ輩ハ。先絶句ヲ學ビ。次ニ律詩。次ニ古詩ナルベシ。若シ學力既ニ備リテ。而後ニ詩ヲ學ブ者ハ。古詩ヨリ入ッテ律絶ニ及ボスベシ。古詩ヲ先ニシ律絶ヲ後ニスルハ。本ヨリ末ニ及ブコトナレバ順ナリ。律絶ヲ先ニシ古詩ヲ後ニスルハ。末ヨリ本ニ及ブコトナレバ逆ナリ。事ハ順ニ如クハナシ。然レドモ古詩ハ學力ナケレバ。作ルコト能ハズ。故ニ止ムコトヲ得ズシテ律絶ヲ先ニス。亦所謂倒行逆施ナリ。

【現代語訳】

○長允文の質問。「漢詩を学ぶときは、いろいろな形式がありますが、どの形式から学習するのがいいのでしょうか?」

漢詩を学ぶときの順序としては、初心者は最初に絶句を学習し、次に律詩、そして古詩に進むのが良いでしょう。漢詩漢文に詳しい人は、古詩から学び始めて律詩、絶句と進むのが良いでしょう。

古詩から学び、律詩、絶句の順序で学習するのは根本から学ぶことになり本来の正しい順序です。律詩、絶句から学んで古詩に進むという方法は本来の順序とは逆になります。

学習するには順序通りに進めるのが基本ですが、古詩は相当の力量がなければ作ることができません。そのため止むを得ず律詩、絶句から学習しています。いわゆる「倒行逆施」ということです。

【語釈】

範世叔=広瀬青邨(ひろせ・せいそん、1819-1884)のこと。名は範、字は世叔、青邨と号す。
長允文=長三洲の父。名は允文、字は世文。
倒行逆施=道理に逆らって事を行うこと。故事成語;『史記』の伍子胥列伝「吾日暮途遠、吾故倒行而逆施之。(吾、日暮れて途遠し、吾、故に倒行して之を逆施す)」が出典。


今回のキーワード

淡窓詩話,広瀬淡窓,漢詩,絶句,律詩,古詩


今回の独習で使用したテキスト

『日本古典文學大系94 近世文學論集』中村幸彦(校注)(1966年)岩波書店
『新字源』小川環樹・西田太一郎・赤塚忠(編)(1968年)角川書店


今回の独習で参考にしたサイト

『漢詩作法入門講座』(URL:http://kansi.info/
『国立国会図書館デジタルコレクション』(URL:http://dl.ndl.go.jp/

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