2017年4月27日木曜日

淡窓詩話(其一之二)

前回取り上げた『淡窓詩話』の続きです(原文の画像は、国立国会図書館デジタルコレクションの画像を参考にしてください)。

前回の質問は、

○長允文問 詩ヲ學ブニハ。諸體何レヲ先ニ學ビ。何レヲ後ニスベキヤ。

でした。

【前回の原文】
詩ヲ學ブノ前後。童子無學ノ輩ハ。先絶句ヲ學ビ。次ニ律詩。次ニ古詩ナルベシ。若シ學力既ニ備リテ。而後ニ詩ヲ學ブ者ハ。古詩ヨリ入ッテ律絶ニ及ボスベシ。古詩ヲ先ニシ律絶ヲ後ニスルハ。本ヨリ末ニ及ブコトナレバ順ナリ。律絶ヲ先ニシ古詩ヲ後ニスルハ。末ヨリ本ニ及ブコトナレバ逆ナリ。事ハ順ニ如クハナシ。然レドモ古詩ハ學力ナケレバ。作ルコト能ハズ。故ニ止ムコトヲ得ズシテ律絶ヲ先ニス。亦所謂倒行逆施ナリ。

【今回の原文】
我邦ノ人。詩ヲ學ブニハ。律絶ヲ先ニシテ古體ヲ後ニシ。書ヲ學ブニハ。行草ヲ先ニシテ楷隷ヲ後ニス。是レ其志速ニ成ルヲ求ムルニ在ツテ。遠大ノ慮ナシ。漢人ニ及バザル所以ナリ。

古詩ヲ學ブニハ。五古ヲ先ニスベシ。七古ハ才力富健ナルニ非レバ。作ルコト能ハズ。若シ七古ヲ學ババ。初メヨリ長篇ヲ作ルハ惡シ。先十二句十六句二十句迄ノ處ヲ作リ。能ク其意味ヲ得タル上ニテ、長篇ヲ作ルベシ。才力ナクシテ作リタル長篇ハ。散緩冗弱ニシテ。運動ノ勢ナシ。蛇ノ胴中ニ疵ヲ受ケタルガ如シ。誠ニ厭フベキノ至リナリ。五古ノ長篇モ。大略之ニ準ズベシ。

【拙訳】
我が国の人が漢詩を学ぶときは、律詩と絶句を先に学び、古詩を後にします。また、書を学ぶときは、行書と草書を先に学び、その後、楷書、隷書を学びます。これは、まずは短期間で、その概要が分かるだけで、本筋を見据えた方法ではありません。この点が中国の人に及ばない理由です。

古詩を学ぶときは、五言古詩を先に勉強すべきです。七言古詩は相当な力がないと作ることができません。もし七言古詩を勉強するときは、初めから長篇を作らずに、まずは十二句、十六句、二十句までの短い句作りの練習をします。そして句のまとまりをよく考えてから長篇は作るべきです。こうした勉強をせずに作った長篇は、だらだらとして何を言っているのか分からない勢いのないものになります。それはまるで蛇の胴中に傷を受けたようなもので、とても忌むべきものです。五言古詩の長篇についても、ほぼ同様です。

【語釈】
才力富健=学力が豊かでしっかりしていること。
散緩冗弱=散緩は、ばらばらでしまりがないこと。冗弱は、だらだらとして弱々しいこと。


今回のキーワード

淡窓詩話,広瀬淡窓,漢詩,絶句,律詩,古詩,五言古詩,七言古詩


今回の独習で使用したテキスト

『日本古典文學大系94 近世文學論集』中村幸彦(校注)(1966年)岩波書店
『新字源』小川環樹・西田太一郎・赤塚忠(編)(1968年)角川書店


今回の独習で参考にしたサイト

『漢詩作法入門講座』(URL:http://kansi.info/
『国立国会図書館デジタルコレクション』(URL:http://dl.ndl.go.jp/

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