2017年3月10日金曜日

「漢文とは何か」(其の五)〜漢字の「音訓」の正体(2)

『漢字の「音訓」の正体』などと大げさな題で、実はその内容は「音読み」の初歩でした。まだ「音読み」については、もう少し学ばなければならないことがあるのですが、今は先に「訓読み」の初歩について調べてみます。

「訓読み」について

「音読み」のところでも少し学びましたが、「訓読み」とは、漢字の中国語としての発音ではなく、その日本語としての訳語になります。「やまとことば」と呼ばれる言葉がその訳語に相当します。

前回の例をもう一度引用すると、

「山」・・・「さん」(音読み)
「山」・・・「やま」(訓読み)

「川」・・・「せん」(音読み)
「川」・・・「かわ」(訓読み)

などの「やま」、「かわ」が訳語(日本語)となります。「山」、「川」の漢字において訳語としての「訓読み」は、中国と日本において意味するところは同じで、「やま」であり、「かわ」です。

では、次の例を見てください。

「鶯」・・・「おう」(音読み)
「鶯」・・・「うぐいす」(訓読み)

「うぐいす」は、もう少し暖かくなれば、鳴き始める春の鳥です。この「鶯」は中国でも日本でも「うぐいす」なのですが、実際の鳥の種類は異なります。

中国で「鶯」と言えば、別名「黄鳥」とも呼ばれる毛色が「黄色」の鳥で、日本では「コウライウグイス」と呼ばれる種類の鳥になります。つまり、我々が思い浮かべる「うぐいす」とは別の鳥です。

ただ、種類は違うのですが、日本の「うぐいす」と同じように、その鳴き声が美しい鳥です(現代はインターネットで鳴き声なども容易に検索でき、聞くことができるので、ぜひ聞いてみてください。日本の「うぐいす」とまったく違う鳴き声からかなり近い鳴き声まで様々な鳴き声を聞くことができます)。

ただ、どちらも鳴き声の美しい春の鳥としての意味は持っています。そのため、種類は違いますが、邦人の漢文(漢詩でよく使われています)に出てくる「鶯」や「黄鳥」は、やはり日本の「うぐいす」を意味します。

このように中国での事物と似たような事物をもった日本語が代用されて「訓読み」となっている漢字もあります。

ところが、この場合とは異なり、漢字は同じなのですが、意味が全く違う文字もあります。

「鮎」・・・「でん」(音読み)
「鮎」・・・「あゆ」(訓読み)

「音読み」であろうが「訓読み」であろうが、どちらも魚には違いないのですが、「音読み」の「鮎」の文字が意味する魚は、日本で意味するところの「なまず」になります。

先程の鳥に例えるならば、同じ文字が片方では「カラス」、片方では「スズメ」となるぐらい、意味する対象が異なります。

つまり、中国の文字として「鮎」を読む場合、「あゆ」と読むことはできません。「あゆ」は、日本でのみ意味が通用する読み方になります。このように日本でしか意味が通用しない「訓読み」のことを「国訓」と言います。

そのため漢文を読む場合には「訓読み」のある漢字であっても、それが「国訓」であれば、その読み方はできません。また、「国訓」としての意味で、その漢字を使用することもできません。故に先程の「鮎」の文字は、「あゆ」を表現するためには使えない漢字になります(漢詩などでは「あゆ」の意味として「香魚」、「年魚」の熟語が使われます)。

最後に「訓読み」しかない漢字について考えてみます。

「畠」・・・「はたけ、はた」(訓読み)

「畠」の文字は「訓読み」しかありません。これは日本語としての意味しか持たない漢字であり、訳語としての対象となる漢字ではないということです。

つまり中国にはない「和製漢字」になります。この「和製漢字」のことを「国字」と言います。「国字」は日本にしかありませんから、「漢文」に出てくることはないので、漢文を「読む」という行為では、あまり気にしなくくてもいいのかもしれません。

しかし、「漢詩」を「作詩」するという行為の場合は、話が違います。漢字ならば何でも使えるわけではありません。つまり「国字」も、「国訓」と同様に使うことができない漢字になります。

「国字」については、漢和辞典を見れば、その旨が記してあるので辞典に頼れば誤ることは少ないと思います。

さて、もっと深く調べればさらにいろいろなことが発見できるのかもしれませんが、趣味人の私が学ぶ「訓読み」の初歩としてはこの辺りで終わりにしたいと思います。

次回は、再び「音読み」に戻り、学び残しのいくつかを調べたいと思います。


今回のキーワード

訓読み、やまとことば、音読み、国訓、国字


今回の勉強で使用したテキスト

前野直彬(2015年)『漢文入門』筑摩書房
加藤徹(2013年)『白文攻略 漢文法ひとり学び』白水社
古田島洋介・湯城吉信(2011年)『漢文訓読入門』明治書院
小川 環樹・西田 太一郎(1957年)『漢文入門』岩波書店

0 件のコメント:

コメントを投稿