前回までに「音読み」と「訓読み」の初歩について学びました。前々回では『「漢文とは何か」(其の四)〜漢字の「音訓」の正体(1)』と題して「音読み」が中国語の発音が訛ったものであることを学びました。
今回は、この「音読み」の初歩からもう少し範囲を広げて学んでみたいと思います。
「音読み」の音は漢字ひとつに一つですか?
表題の通り、原則としては漢字一つに対して割り当てられている「音」はひとつだけです。
しかし、実際に「漢和辞典」を見てみると、その原則通りではないように思えてしまいます。例えば「明」という字の「音読み」を調べてみましょう。
「明」・・・「メイ」、「ミン」、「ミョウ」
このように「明」の文字には三種類の「音」があることがわかると思います。
さらに、よく辞典を見てみると、辞典によって表記方法は異なりますが、それぞれの音に(慣)(漢)(呉)という記号が付いています。
「明」・・・「メイ」(慣)
「明」・・・「ミン」(漢)
「明」・・・「ミョウ」(呉)
この記号は、それぞれ「慣用音」、「漢音」、「呉音」という種類を表現しています。また、この三つ以外に「唐音(唐宋音ともいう)」という種類の「音」がある文字もあります。
それぞれの「音読み」は異なりますが、意味に違いはありません。この「音」の違いは、漢字が伝えられた時代の「音」による違いと言われています。
最初に「呉音」が仏教とともに伝えられたと言われています。この「呉音」は、「三国志」で有名な「魏・呉・蜀」の「呉」にあたる現在の江南地方(中国の南方)の発音が訛ったものです。
次に遣唐使によって伝えられた言われている「漢音」が入ってきます。唐の国都「長安」、現在の陝西省西安市辺り(中国の北方)の発音が訛ったものです。
三番目に「唐音(唐宋音)」が伝わります。これは「宋」「元」「明」「清」時代の発音が日本の鎌倉時代から江戸時代ぐらいまでの間に伝わり訛ったものです。
最後に「慣用音」ですが、この「音」は伝わったものではなく、日本での「誤読」が長い年月の間に定着したものと言われています。
このように発音が訛った「音」は、四種類あるわけですが、どの「音」でも意味に違いはありません。例示した「明」の文字も三種類の「音」がありましたが、現代の標準中国音を表す「ピンイン」を見てみると、
「明」・・・「míng」
と、ただ一つの「音」しかありません。このように原則としては漢字ひとつに対して「音」はひとつなのです。
ただし、やはり例外はあるものです。ここでは漢字「中」を調べてみましょう。
「中」・・・「チュウ」
この「中」の字の「音」は、ただ一つですが、辞典によっては(漢)とか(呉)の表記がないものがあります。これは「漢音」と「呉音」で同一の「音読み」になることを意味しています。
このように「音読み」が一つだから意味も一つかと思えば、そうはならないのです。ここが難しいところです。「中」の字について先程のピンインを調べてみます。
「中」・・・「zhōng」
「中」・・・「zhòng」
中国の発音は「四声」と呼ばれる四種類の声調があります。この声調によって意味を使い分けているのですが(私自身は中国語については全くわかりませんから、正しいことは中国語の教科書をみてくださいね)、通常、一つの漢字には一つの声調しかありません。漢字全体の九割ぐらいと言われています。
ただ、一割は複数の声調を持つ漢字があることになります。先ほどの「中」の字は、この複数の声調を持つ漢字ということになります。先ほど、難しいと表現したのは、日本語の「音読み」では、この「四声」を表現することができないからです。
ピンインで、「zhōng」と表現すれば「o」の部分が 「四声」の「第一声」、「zhòng」と表現すれば、「o」の部分が「四声」の「第四声」であることがわかりますが、「音読み」では、どちらも「チュウ」にしかなりません。
「中外」・・・「チュウガイ」・・・「zhōng」
「中毒」・・・「チュウドク」・・・「zhòng」
このとき「中外」の「中」の文字は内側・外側を意味するところの「なか」ですが、「中毒」の「中」の文字は毒に「あたる」の意味になりますが、「音読み」では、ただの「チュウ」にしかなりません。
この「四声」については、「漢詩」を学ぶためにはとても重要なものですので、また後から詳しく学習したいと思っています。
今回は、少し長くなりましたが、「音読み」について、初歩より少しだけ範囲を広げて学んでみました(この内容も国語や中国文学を専門に学んでいる人たちから見れば、初歩の初歩なのでしょうが、門外漢の趣味人としては初歩より、ほんの少し、わずかな足の指の折り曲げ程度の進み具合かもしれませんが、確かに学びが進んだと自己満足しているところです(^_^);;;)。
今回のキーワード
音読み、「慣用音」、「漢音」、「呉音」、「唐音」、「唐宋音」、「四声」
今回の勉強で使用したテキスト
前野直彬(2015年)『漢文入門』筑摩書房
加藤徹(2013年)『白文攻略 漢文法ひとり学び』白水社
古田島洋介・湯城吉信(2011年)『漢文訓読入門』明治書院
小川 環樹・西田 太一郎(1957年)『漢文入門』岩波書店
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