2018年12月22日土曜日

「用事」について〜「元史君が楚より越に移るを送る」

前回は、『三体詩』より「元史君が楚より越に移るを送る」(劉商)を掲載しました。今回は、この詩を使って「用事」について見てみます。

詩の中に事実を用いる技法を「用事」と言います。

ここで言う「事実」とは「典故(故事のこと)」のことになります。例えば、「語釈」の部分に
「露冕は、漢郭賀の事を用ゆ。」と説明していますが、この「・・・の事を用ゆ」が「用事」と言うことになるわけです。

ただ、これを解釈するのは、なかなか難しいものです。
『三体詩』の場合は、今は古本でしか入手できませんが、それでも朝日文庫の『中国古典選』の中に解説本があるので、とても助かります。

もし、それが無ければ、昔のテキスト、私が使っているもので言えば、古書の「増注 三体詩」を読むしかありません。ただ、これが読めないんです。例えば、先の「露冕」の部分の注は「返り点」と「送りがな」を省略した原文のみを挙げると以下のようになります。

後漢郭賀。為荊州勅史。百姓歌曰。厥徳仁明郭喬卿。帝賜三公之服。使賀去襜露冕。令百姓見。以彰有徳。

『増注 三体詩』より

つまり、漢文を読むことになるわけです。あるいは、この注を手掛かりに、故事辞典を調べたり、さらにインターネットで調べれば、中国語のサイトですが沢山検索することができます。ただ、中国語ですから、翻訳したり、無理やり漢文読みしたり、中国語がわかる人に聞いたり・・・して何とか、意味を探ることになります。

本当に「故事」を調べるのは苦労しますが、その過程はとても楽しいものです。
興味がある人は、ぜひ、調べて見てください。

漢詩を作る場合、「故事」をうまく用いて詩ができればいいのですが、実際には、よく考えて用いないと意味が通らなくなったり、見当違いの意味になったりすることもあるから注意が必要です(私もよく失敗します)。

それと、私たちが作る場合は、作り方により違いもありますが、なるべく一つの詩には一つの故事とする方がいいようです。

なお、この詩は、多くの「故事」を散りばめた詩になっていますので、複数の故事を用いる場合の参考になると思います。ただし、それを用いるのはとても難しいですが。

因みに、「露冕」以外に「行春」、「欲移家」、「棠梨」、それぞれに「故事」があることは注に記されています。例えば、「棠梨」は、単体では植物名ですが、この詩の場合、「元史君を送る」に当たって「元史君」を昔の徳のあった「召公」に比す意味を持っています。

本当に、「用事」は難しいけど、単に解説書を読むだけでなく、その解説に至る、いろいろな文献や情報に出会えることは、何と楽しいことでしょうか。

「故事」については、沢山ありますから、折を見て、少しづつ掲載できればと思っています。ただ、なかなか調べてから理解するのに時間がかかるので、タイミングとしては「タイムリー」とは行きませんが、がんばります。


では、次の記事で、また、お会いしましょう。
失礼します。

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